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自然の不思議にふれる喜び

“エコ散歩”楽しむ男女たち




 やぶなべ会第3代の天内康夫の活動記事が「東京新聞夕刊 (2000-1-25付)」に掲載されました。


新聞記事



 天候に恵まれた土曜日の午前十時。東京の京王線・井の頭公園駅の改札口前にデイバックを背に軽快な身支度をした平均年齢六十五歳の男女が集まった。総勢十三人、自然観察指導員の天内康夫さん(67)の導きで井の頭公園への“エコ散歩”のスタートだ。自然観察指導員は、環境庁が日本自然保護協会に委託した自然に親しむ人を養成する制度によって認定される。天内さんは、五年前に故郷の青森で資格を取得。その一年後から、青森師範学校付属小学校の同窓生が中心の“エコ散歩”のグループ活動をはじめた。正月と真夏を除いて月一回の割合で、小石川植物園、目黒自然教育園、新宿御苑など、すでに三十カ所余りを巡った。コースや場所選びは、心臓手術後や糖尿病の人などもいるので、健脚の人よりも弱者に合わせて設定している。
 「父が山歩きが好きでしたので幼いころから自然と親しみましたし中学時代は生物クラブに入って昆虫採集などをしていました」
 大学で生物学を専攻し、卒業後は高校の理科教師を勤める。その後、教育系出版社に移って理科の学習雑誌や参考書などの編集に携わった。今も、出版社に非常勤で通っている。
 井の頭公園に入ると、池の水鳥のコサギやオナガガモの説明や杉の仲間のメタセコイアの葉について解説する天内さん。さらに、メンバーからの質問にこたえるため、双眼鏡をのぞいたり、いつも携帯しているハンディな植物図鑑のページをめくるという熱心さ。天内さんのバッグには、ほかに温度計、折りたたみ指示棒、ピンセット、ルーペなどが用意されている。
 「寒い時も暑い時も、自然はそこにあります。自然の不思議にふれての発見と感動は、かけがえのない喜びですね」
 決して無理をしないというのがモットーというだけあって歩調もゆっくり。時には、落ちているゴミを丁寧に拾っている。
 しはらく歩いた後、自然文化園へ。入場料は六十五歳以上は無料ということで、年齢を証明するために各自が健康保険証などを提示した。が、中に提示するものを忘れた人がいて、天内さんが自然観察指導員の腕章を見せて無事に入場を果たす。水生物館をじっくり見学をした後は、園内の茶店で昼食タイムとなる。この時間にも、天内さんは持参した植物の紹介をはじめる。
 日本ではなじみのないフトモモ科の「フェイジョア」の実を差し出し、ナイフで皮をむいて小さく切り分けて皆に配った。メンバーで最高年齢の稲見純助さん(78)は「この年齢にして知らないことを初めて知るという喜びを十分に味わっています」と甘い香りを漂わせるフェイジョアの実を口にする。  ″エコ散歩″を通して豊かなふれあいを重ね、自然や人との共生を大切にする姿はすばらしい。
 「近ごろの子どもたちの心の荒廃が、自然との深いかかわりによって改善されればいいのですが」
と、天内さんは熱い思いを最後にこう結んだ。(樹)


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