会名由来/部誌・会報掲載記事抜粋

最近の高校生物部の傾向

10代 室谷洋司 (生物部誌「やぶなべ第5号」より)

 表題について私は筆を執ろうとしているが、それをなす資格があるのか躊躇を感じます。やぶなべ会に多くの先輩を擁する私たちは、初代の方々の話しと今日の実情を比べる機会があり、すでに述べたことがあるように、その史観に注目すべきです。つまり今日の状態は垢抜けした「近代的」なのかも知れません。私が高校の初めの頃の生物展や活動内容と、今日各所に見られるものと比較して特にその感を深くしました。それは決して内容が向上したとか、程度が低いということを意味するのではありません。いま問題にしている「傾向」についてです。勿論、その傾向は現在の青高とは一致していませんが、弘前市のものに見られるように、室内の「実験」が、以前の採集、観察から移行したということであると思います。
 例えば、私たちは上級の部員から山へ山へと誘われたものであったし、その頃の結果として今でも山歩きは欠くことのできない生活の一部となったのですが、部にあった野営設備で山野を跋渉したことが色々と思い出されます。しかし、それでさえも上級の方(先輩)の「山行き」の頻度と比較すれば少ないと抗議のもたらされることは必至です。 私たちは山を歩かねばできないようなテーマを多く持っておりましたし、今日ますます輝きを見せている「青森海岸の植物群落」などもその頃に端を発したものです。
 しかし、後に弘前の例を紹介するが、今日では、「実験」が多くを占めることが否定できません。そのうえ、ちょうどその頃ですが、現在も盛会を続けている県下理科教育研究会発表会の講評として、「今の高校生物は観察でなくして実験を主体となしているので、研究発表の成績としては実験の方を優先的に扱う」という意外な言葉を聴し、観察主義の私たちは失望したことがありました。幸い私が終わる頃、なかなか実現することができないような生物展を催すことができましたが、あれが観察はなばなしき頃の結実かと、今日以下に記すような実験の多い雰囲気にあって特にその感が高まるのです。
 私は弘前市にある各校の生物部について色々と注意したので読書子の参考に供しよう。
 周知のように弘前市には弘前大学の大きな力と影響を受けている「みちのく学生生物同好会」があり大きな会員と層を有しており、市内の高校生物部は、これで横のつながりを持とうと努力している感があります。(必ずしもその目的は達成されたとは言われません。それらの中に自分が今まで味わってきたものとは違った雰囲気にひたりました。即ち、日頃の研究題材は教師と生徒が親密に高校の教科内容に準じたものが主としてなされたと言うことです) 自然なことですが、これは女子高校にその傾向が顕著なのであります。1958年度の私の見た各校生物展の成果を抜粋してみると

 ○ ペーパークロマトグラフによる各種植物の色素分析
 ○ P.T.C.での味盲調査(以上弘前中央高校)
 ○ 葉のしおり(ツバキの葉脈など)
 ○ 呼吸の測定(発芽しかけのエンドウ、キクの花を使用)(以上聖愛高校)
 ○ 空中の細菌培養(弘前公園、校内、映画館、街路)
 ○ 単子葉植物と双子葉植物の相違(顕微鏡で)(以上弘前女子高校)
 ○ 血液の違い(人間、カメ、カエルなど)
 ○ 鰓の繊毛運動(二枚貝)(以上東奥義熟高校)

等々、(弘前高校は秋期には行われず、弘前商業高校は歴史がまだ浅い上、場所が十分与えられなかったので、系統的でなかったが、努力はにじみ出ていた)
 さて、私の最近の印象にあるものは、青高生物部がもっとも新しい生物展及び昨今の活動で実験的なものが以前にも増して多かったということである。このような傾向は私の頃以前にも見られたことだが、今後もその様な方向により大きい規模で進みつつあるように思われる。しかし、何れにせよ、青高の前に出るものはかつて目に映じなかったことを付言しておこう。なお、ショー的なものが今年大きな幅を持ったが、弘前地方では多く見られないものである。
 最近とみに受験や就職困難の激烈化のために高校の性格が変容しているということは、今更私のような子供が書くところではない。このようなことが楽しい山野の採集観察から室内実験に至らしめた一つの原因であり、それにも増して重要なことはクラブ活動の不活発化と、たとえ山野に出たとしてもそのレクリエーション化である。このような今日の一般的な現象は、「努力」によって防ぎうるものであり、一団となってその方向へ進んでほしいと思います。
 各地の高校が実施しているように、夏期の長期生物調査は、観察と経過が正しければその地域の動物層、植物層その他の解明に重要な価値があると思います。
一方、室内実験は既知の事柄について「繰り返す」域は出ることはないし、大きな期待もかけることはできないと思います。(多くのものを望むことがそもそも間違っている)。しかし、前述の情勢がそうさせている限りにおいて、進んで高校のテキストに問題点を見出して、それを一般のカリキュラムに含まれた以外の実験、観察でもって理解を深め、その態度を将来において利用することが想起されます。
 もし、生物部員が切実に問題に直面した時、以上の事柄は私見の域を抜けることはできないものでありますが、何かヒントを得て進んでください。(1959.11.24)


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